東京高等裁判所 平成8年(行ケ)328号 判決 1997年9月02日
奈良市登美ヶ丘5丁目1-13
原告
黒田重治
大阪市北区西天満2丁目4番4号
被告
積水樹脂株式会社
代表者代表取締役
増田保男
訴訟代理人弁理士
武田俊也
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1)特許庁が平成8年審判第4523号事件について平成8年11月28日にした審決を取り消す。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、考案の名称を「パイプ材」とし、昭和48年11月8日出願、昭和56年3月31日に設定登録された登録第1371825号実用新案(以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。
被告は、平成8年3月27日本件考案について無効審判を請求し、特許庁は、同請求を平成8年審判第4523号事件として審理した上、平成8年11月28日、「登録第1371825号実用新案の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は平成9年1月20日原告に送達された。
2 本件考案の要旨
中空状パイプの端口に合致する外形で適長の柱状固定脚と中空状パイプの外形に等しい外形で適長の柱状頭部とを有する変形防止材をゴム又は合成樹脂等で形成し、中空状パイプの両端口内に固定脚を挿入固定すると共に中空状パイプの両端を頭部により延長してなるパイプ(別紙図面1参照)
3 審決の理由の要点
(1)本件考案の要旨は、前項記載のとおりである。
(2)本出願前日本国内において頒布された刊行物である昭和48年特許出願公告第16344号公報(以下「引用例」という。別紙図面2参照)には、“金属管の外形と等しい鍔部と金属管の内形と等しい嵌挿部とからなる合成樹脂製栓体を金属管の両端に嵌挿して・・・金属管の少なくとも後端側の栓体の嵌挿部を貫通して鍔部の外周壁に開口し、金属管内部と大気とを連通する如き空気抜きが設けられ、且つ前後に隣接する金属管の前後端で相接する二つの栓体のうち一方の栓体の先はほぼ円錐状に突出して突出部となされており、夫々の栓体の突出部と陥入部とによって隣接する金属管の中心が揃うようになされた金属管を連続的に押出機の金型に導入して”(2欄10行ないし23行)、“栓体2はポリスチロール、ABS樹脂、・・・アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂や・・・エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂にて作製されたものであって、鍔部21と嵌挿部22とからなり、・・・該嵌挿部22を金属管1の端部に嵌挿した時に鍔部21と金属管1の外壁とが平滑面となるようになされている。”(2欄36行ないし3欄12行)の記載があり、第1図には、嵌挿部22が金属管1の端口に合致する外形を有し、鍔部21の外形が金属管1の外形に等しく、金属管1の両端を鍔部21により延長している構成が示されていることから、引用例には、“金属管の端口に合致する外形の嵌挿部と金属管の外形に等しい外形の鍔部とを有し、金属管内部と大気とを連通する如き空気抜きが設けられた栓体を合成樹脂で形成し、金属管の両端口内に嵌挿部を挿入固定すると共に金属管の両端を鍔部により延長して成る管”が記載されていると認められる。
(3)<1>本件考案と引用例記載の発明とを対比すると、引用例記載の発明の“金属管”、“嵌挿部”、“鍔部”、“管”は、本件考案の「中空状パイプ」、「柱状固定脚」、「柱状頭部」、「パイプ」に各々相当する。また本件考案における「適長の柱状固定脚」、「適長の柱状頭部」の「適長」については、明細書の考案の詳細な説明(本件考案の昭和55年実用新案出願公告第11944号公報(以下「本件公告公報」という。)2欄9行ないし15行)に「固定脚2は中空状パイプ1の太さに比して相当に長く形成されたもので例えば中空状パイプ1の太さと同等又はそれ以上の長さに形成しておくのが好ましく、また頭部3の突出延長寸法は中空状パイプ1の太さの略半分又はそれ以上に設定するのがよい。」と記載されている。一方、引用例には、鍔部や嵌挿部の長さに関して、実施例として「金属管としては外径18m/m、内径17.5m/m、長さ25mの鉄管を使用した。栓体は・・・鍔部長さ10m/m、嵌挿部長さ18m/mであり、」(4欄29行ないし33行)と記載されており、鍔部長さは10m/mで金属管の外径18m/mの半分以上であり、嵌挿部の長さ18m/mは金属管の外径m/mと同等であるから、引用例記載の発明の“嵌挿部”と“鍔部”のそれぞれの長さは、本件考案でいう「適長」を持っているといえる。
<2>更に、引用例記載の発明の“栓体”は、合成樹脂により形成されており、金属管の端口に合致する外形で適長の嵌挿部を金属管の端口内に挿入固定し、金属管の外形に等しい外形で適長の鍔部により金属管の両端を延長しているから、金属管の端口部に衝撃や外圧が加えられた場合に、栓体の嵌挿部や鍔部が金属管の端口部の変形を防止するであろうことは、当業者が容易に認識し得るところであり、引用例記載の発明の“栓体”は、その機能からみて、本件考案の「変形防止材」に相当する。
<3>以上のことから、本件考案と引用例記載の発明は、「中空状パイプの端口に合致する外形で適長の柱状固定脚と中空状パイプの外形に等しい外形で適長の柱状頭部とを有する変形防止材を合成樹脂で形成し、中空状パイプの両端口内に固定脚を挿入固定すると共に中空状パイプの両端を頭部により延長してなるパイプ」である点で一致し、引用例記載の発明は、変形防止材が、中空状パイプ内部と大気とを連通する如き空気抜きが設けられているのに対し、本件考案は、変形防止材がそのような構成を有していない点で相違する。
(4)そこで上記相違点について検討する。引用例に、“金属管を連続的に押出機の金型に導入して金属管の外壁及び栓体の鍔部の外周壁に溶融樹脂を押出被覆すること”(2欄22行ないし24行)、“金属管(中空状パイプ)に嵌挿される栓体(変形防止材)の嵌挿部に金属管内と外気とを連通する空気抜きが設けられているので、合成樹脂層の押出被覆時に金属管(中空状パイプ)が加熱され、内部の空気が膨張しても空気抜きから大気中に抜けるので、栓体(変形防止材)が抜けるようなことがないこと”(5欄19行ないし24行)の記載があることから、引用例記載の発明は、中空状パイプと変形防止材の柱状頭部の外周壁に更に合成樹脂を被覆することを予定して変形防止材に空気抜きを設けたものであるが、普通に知られている合成樹脂を被覆しないパイプの場合には空気抜きを設ける必要がないことは明らかであるから、合成樹脂の被覆層を有していない引用例記載の発明において、変形防止材に空気抜きを設けないようにすることは、当業者が必要に応じ適宜なし得たことである。したがって、本件考案は、引用例記載の発明に基づき当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。
(5)以上のとおりであるから、本件考案の登録は、実用新案法3条2項の規定に違反してなされたものであり、同法37条1項1号の規定により無効とすべきものである。
4 審決の取消事由
審決(1)、(2)は認める。同(3)のうち、<1>は認め、<2>は争い、<3>のうち本件考案と引用例記載の発明が「変形防止材を合成樹脂で形成し、」との点で一致することを争い、その余は認める。同(4)のうち、引用例に審決摘示の記載があることは認め、その余は争う。
審決は、本件考案の技術内容及び引用例記載の発明の技術内容をそれぞれ誤認した結果、「変形防止材を合成樹脂で形成し、」との点で一致点の認定を誤り、さらに相違点の判断を誤ったものであり、違法であるから取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り)
審決は、引用例に記載された“栓体”は、その機能からみて、本件考案の「変形防止材」に相当するとし、両者は「変形防止材を合成樹脂で形成し」の点で一致すると認定しているが、これは誤りである。
本件考案の変形防止材の合成樹脂は、パイプ端部の開口部に加わる衝撃や外圧による変形を阻止するための衝撃吸収性能を付与したものに限定される。すなわち、本件考案の変形防止材の「ゴム又は合成樹脂」の合成樹脂とは、ゴムのように衝撃が外圧に対応するための衝撃吸収性能を付与したものに限る。これに対して、引用例記載の発明の栓体は、熱可塑性樹脂(半硬質)か熱硬化性樹脂(硬質)であればなんでもよく、衝撃吸収性能は付与されていない。したがって、引用例記載の発明の栓体と本件考案の変形防止材は異質のものであって、両者は一致しない。
また、本件考案の変形防止材のパイプ外形に等しい外形で適長の柱状頭部は、パイプが垂直又は斜めに落下したときの衝撃を吸収しパイプ端部の変形を防止する。また、パイプの端口に合致する外形で適長の柱状固定脚は、パイプ端部の横方向の外圧に対して内部より変形を阻止する。すなわち、本件考案はパイプ両端開口部を内外二段で変形を阻止し、保護しようとするものである。これに対して、引用例記載の発明のパイプは垂直や斜めに落下したり、横方向の外圧を受けたりすることはないから、栓体で内外二段による変形防止の必要がない。
(2) 取消事由2(相違点の判断の誤り)
引用例記載の発明の栓体は、被覆管製造用の補助具であるのに対し、本件考案の変形防止材はパイプ端部の開口部を保護するための保護材であるから、両者は技術分野を異にし、解決すべき課題及び作用効果が異なる。
また、引用例記載の発明から合成樹脂被覆を除いた中間品では、本件考案の「パイプ材」として使用できない。パイプ材の当業者において、上記中間品である引用例の実施例図記載のものから合成樹脂皮膜を除いたり、空気抜きや円錐状凹凸面を除いた形状の栓体を用いて本件考案の「パイプ材」を想到することはきわめて容易になしえたことでない。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の主張
1 請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。
2 反論
(1) 取消事由1について
本件考案の変形防止材は、ゴム又は合成樹脂で形成するとされ、合成樹脂の種類については特に限定していない。一方、引用例の実施例に例示された低密度ポリエチレンは半硬質プラスチックである。また、引用例で栓体を形成する合成樹脂として例示されているエチレンー酢酸ビニル共重合体等は、酢酸ビニル含量が増すとゴム弾性が向上するから、引用例記載の発明の栓体を形成する合成樹脂は必ずしも硬質プラスチックに限定されるものではない。さらに、栓体が硬質プラスチックからなるとしても、プラスチックである以上、その弾性率に応じて衝撃吸収性能を具備している。したがって、引用例記載の発明の栓体と本件考案の変形防止材を形成する合成樹脂は一致する。
(2) 取消事由2について
本件考案は、中空状パイプ内への土、水等の侵入防止と合わせて中空状パイプ自体の変形防止を計り長期使用の可能なパイプ材の提供を課題とするものであり、引用例記載の発明も、両端を合成樹脂にて密閉することにより金属管の内外面の発錆を抑制することを課題とするものであって、両者は金属管の端口に合成樹脂挿入固定することによって金属管の発錆等を防止するといった共通の技術分野、課題、作用効果を有している。
したがって、合成樹脂皮膜が形成されていないパイプ材において、パイプ内への土、水等の侵入防止のために引用例記載の発明の栓体から空気抜きを設けないようにすることは、当業者であれば、必要に応じて適宜なし得たことである。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
第1 請求の原因1ないし3の各事実(特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨、審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。
第2 本件考案の概要について
成立に争いのない甲第2号証(本件公告公報)によれば、本件明細書に記載された考案の概要は以下のとおりと認められる。
1 本件考案の目的とするところは、端部の強度を大きくし長期にわたって使用できる角バタ材その他の用途に用い得るパイプ材を提供するにある(1欄29行ないし32行)。
2 従来の金属角バタ材の中空状パイプ1の端部には使用時に土、泥水などが中空部内へ侵入するのを防止するため第4図のように薄肉形成せるキャップAを被着していた。しかし金属の中空状パイプ1の端部に衝撃、外圧等が加わると第5図のようにこの端部が変形し同時に薄肉のキャップAも脱落して使用不能となる欠点があった。本件考案は、かかる従来の欠点を解決するため(1欄33行ないし2欄3行)、実用新案登録請求の範囲(本件考案の要旨)記載の構成(1欄15行ないし21行)を採用したものである。
3 本件考案にあっては、ゴム、合成樹脂などの変形防止材の頭部を中空状パイプの外形と等しい外形の柱状体とし、この頭部により中空状パイプの端部を延長しているのでパイプ材を垂直又は斜めの向きで端部から落としたときの変形防止材頭部の変形が中空頭部の場合に比して小さいものであり、中空状パイプの端口保護性能が大きい利点があり、しかも上記頭部は大きな厚さを持つので、落下時の衝撃が大きくとも頭部だけで充分衝撃吸収が可能であって中空状パイプの端口への衝撃の伝達がほとんどなく、中空状パイプの端口保護が充分に行える利点がある。また、変形防止材の固定脚を中空状パイプの端口と合致する外形の柱状体とし、この固定脚を端口内に挿入固定しているので、中空状パイプの変形しやすい端口部の全周を内側から固定脚で支持することとなり、端口部に外圧や横又は斜め落下等の衝撃が加えられたとしても、固定脚により変形を阻止することができ、上記厚い頭部による保護と併せて2段の変形防止が行える利点があり、さらに変形防止材をゴム、合成樹脂等で形成しているから、変形防止材が弾性を有し、衝撃吸収性が良いばかりでなく変形後の復元性があり、長期の使用において中空状パイプの端口部の変形損傷防止機能を維持できる利点がある。したがって、本件考案は中空状パイプ内への土、水などの侵入防止と合せて中空状パイプ自体の変形防止を計り長期使用の可能なパイプ材を提供したものである(同2欄22行ないし4欄3行)。
第3 審決取消事由について
1 取消事由1について検討する。
(1) 変形防止材の材質について
本件考案の変形防止材に関し、原告は、引用例記載の発明は熱可塑性樹脂(半硬質)か熱硬化性樹脂(硬質)であれば何でもよく、衝撃吸収性能は付与されていないとした上、本件考案の変形防止材の「ゴム又は合成樹脂」の合成樹脂とは、ゴムのように衝撃や外圧に対応するための衝撃吸収性能を付与したものに限るとしており、変形防止材の合成樹脂はゴムのような衝撃吸収性能を付与したものに限られ、半硬質プラスチック及び硬質プラスチックを含まないと主張するようであるので、これについて検討する。
前掲甲第2号証によれば、本件考案の実用新案登録請求の範囲においては、変形防止材を、「ゴム又は合成樹脂等により形成し」とされ、合成樹脂の種類を限定する記載は存しないことが認められる。そして、上記「ゴム又は合成樹脂等」との記載を根拠に、合成樹脂がゴムと同様の衝撃吸収性能を有する合成樹脂に限られると解することはできない。
次に、上記「変形防止材をゴム又は合成樹脂により形成し」との記載から、変形防止材との関係で上記合成樹脂の材質が限定されるか否かについて検討する。上記「変形防止材」の記載は変形防止の機能を有することを構成要件的に表現したものであるが、その機能の実現方法に関して、変形防止材の材質が「ゴム又は合成樹脂等」であることの技術的意義は実用新案登録請求の範囲に明記されていない。そこで、この点について本件明細書の考案の詳細な説明を参照すると、変形防止材をゴム、合成樹脂等で形成しているから、変形防止材が弾性を有し、衝撃吸収性が良いばかりでなく変形後の復元性があり、長期の使用において中空状パイプの端口部の変形損傷防止機能を維持できるとの記載があること前記第1、3のとおりであり、上記記載に徴すれば、本件考案が、変形防止材の材質を「ゴム又は合成樹脂等」とした技術的意義は、材質が弾性を有するためであり、これにより変形防止材が衝撃吸収性能及び復元性を有し、変形防止の機能を持つものと解される。そうすると、本件考案の変形防止材に使用される「合成樹脂」とは、熱可塑性、熱硬化性を問わず、弾性を有する合成樹脂を指すものと解すべきである。
ところで、成立に争いのない乙第1号証(「実用プラスチック用語辞典」(株)プラスチックス・エージ昭和47年5月20日発行、168頁右欄31行ないし38行)によれば、一定条件で試験を行い、引張り弾性率または曲げ弾性率が100、000psi(7、000kg/cm2)以上の材料を硬質プラスチック、弾性率が10、000psiより小さい材料を軟質プラスチック、弾性率が100、000psiと10、000psiとの間にあるプラスチックを半硬質ということが認められる。そうすると、半硬質プラスチックであれ、硬質プラスチックであれ、いずれも弾性率の差はあるものの弾性を有しているから、程度の差はあってもその弾性率に応じた衝撃吸収性能や復元性を有していることは明らかである。したがって、変形防止という機能の技術的意義を検討しても、変形防止材の材質たる合成樹脂から半硬質プラスチック及び硬質プラスチックを除く理由はないといわざるをえない。
以上のとおり、変形防止材の材質となる合成樹脂は、熱可塑性、熱硬化性を問わず、半硬質プラスチック及び硬質プラスチックをも含むと解すべきである。
(2) 引用例記載の発明の栓体について
成立に争いのない甲第3号証によれば、引用例記載の発明の栓体の材質について、引用例には「栓体2はポリスチロール、ABS樹脂、BS樹脂、AS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、エチレンー醋酸ビニル共重合体、エチレンー醋酸ビニルー塩化ビニル三重合体、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂やフェノール樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂にて作製されたものであって」(2欄36行ないし3欄6行)「実施例・・・栓体は低密度ポリエチレン製で」(甲第3号証4欄28行ないし31行)との記載があることが認められる。そして、前掲乙第1号証(169頁表コー2のプラスチックの弾性率による区分表)によれば、上記低密度ポリエチレンは半硬質プラスチックに該当し、弾性率100、000psiと10、000psiとの間の弾性を有し、その弾性に応じた衝撃吸収性能や復元性を有することが認められる。そうすると、引用例の実施例に「栓体を低密度ポリエチレンで作製し」と記載されていることは、引用例記載の発明も本件考案と同じく「変形防止材を合成樹脂で形成し」ているというべきである。
(3) 原告は、本件考案の変形防止材はパイプ両端開口部を内外二段で変形を阻止し保護しようとするものであり、引用例のパイプはその必要がないと主張する。
しかしながら、本件考案の変形防止材と引用例記載の発明の栓体とが、その構成において、「中空状パイプの端口に合致する外形で適長の柱状固定脚と中空状パイプの外形に等しい外形で適長の柱状頭部とを有する」点で一致することは当事者間に争いがなく、上記のとおり、「変形防止材を合成樹脂で形成し」ている点でも一致している以上、引用例の栓体も、本件考案と同様、パイプ両端開口部を内外二段で変形を阻止し保護する機能を有しているものと認められる。したがって、パイプ両端開口部を内外二段で変形を阻止し保護しようとする必要性の有無をもって、本件考案の変形防止材と引用例記載の発明の栓体が異なるとすることはできず、原告の主張は失当というほかはない。
(4) 以上のとおり、本件考案と引用例記載の発明が「変形防止材を合成樹脂で形成し」の点で一致するとした審決の認定に誤りはない。
2 取消事由2について検討する
(1) 前掲甲第3号証によれば、引用例には、空気抜きについて、「栓体の嵌挿部に金属管内部と外気とを連通する空気抜きが設けられているので合成樹脂層の押出被覆時に金属管が加熱され、内部の空気が膨張しても該空気抜きから大気中に抜けるので、金属管端から栓体が抜けるようなことがない。更に、空気抜きは鍔部の外周面に開口しているから最終的には合成樹脂層によって被覆密封されるので、管内に水分等一切入らず金属管内面の発錆はほぼ完全に抑制されるのである。」(5欄19行ないし6欄2行)との記載があることが認められるところ、上記記載に徴すれば、引用例記載の発明の栓体の空気抜きは、合成樹脂層の被覆時の加熱により内部の空気が膨張し、栓体が抜け出すことがないようにするために設けられたものであって、最終的に被覆密封されるものというべきであるから、通常の使用形態においては必要のないものと認められる。そうすると、合成樹脂層の被覆時の加熱のないパイプ材において、栓体に空気抜きを設けないようにすることは、当業者が必要に応じ適宜なし得たことというべきである。
(2) これに対し原告は、本件考案と引用例記載の発明とは技術分野、課題、作用効果が異なると主張する。
しかしながら、本件考案も引用例記載の発明も、パイプ端口部の保護に関する技術である点において同一の技術分野に属することは、前記1認定事実に照らし明らかであり、両者が技術分野を異にすることを理由として両者が解決すべき課題及び作用効果が異なるとする原告の主張は、その前提において誤っており、採用できない。そして、両者の課題及び作用効果を具体的に検討しても、本件考案は、中空状パイプ内への土、水との侵入防止と合わせて中空状パイプ自体の変形防止を計り長期使用の可能なパイプ材の提供をするものであること前記第1、3のとおりであるところ、前掲甲第3号証によれば、引用例記載の発明は、「両端を合成樹脂にて密封することにより金属管の内外面の発錆を抑制する」(1欄21行ないし23行)ものであることが認められるから、両者は、金属管の端口を合成樹脂を使用して塞ぐことにより金属管内部への水分の侵入やそれによる発錆を防止するという共通の課題及び作用効果を有しているというべきである。
また、原告は、引用例記載の発明から合成樹脂被覆を除いた中間品では、本件考案の「パイプ材」として使用できないことを理由として、引用例の記載のものから本件考案を想到するのがきわめて容易ではないと主張する。しかしながら、引用例記載の発明から合成樹脂被覆を除いた構成のものが、本件考案の「パイプ材」として使用できない理由は、栓体に空気抜きがあるためである。そして、前認定のとおり、栓体に空気抜きを設けないようにすることは、当業者が必要に応じ適宜なし得たことである以上、中間品では本件考案の「パイプ材」として使用できないこと、すなわち栓体に空気抜きがあることが、引用例の記載のものから本件考案を想到するのがきわめて容易ではないという根拠とはならないことは当然であるから、原告の主張は失当である。
さらに、原告は、引用例記載の発明は、パイプの外面に合成樹脂被覆があり、栓体に円錐上凹凸面があることを理由として、引用例記載の発明から本件考案を想到するのがきわめて容易ではないと主張するようである。しかしながら、本件考案は、パイプの外面の合成樹脂被覆の有無、及び変形防止材の円錐上凹凸面の有無については何らの限定もしていない。そして、前掲甲第3号証によれば、引用例記載の発明においては、外面の合成樹脂被覆は、金属管の外面の発錆を防止するものであり、栓体の円錐上凹凸面は、連続的に送り込まれる金属管の前後に相接する栓体の中心を合致させるものであることが認められるところ、これらはいずれも、本件考案の変形防止材の機能とは別異であり、関連性の乏しいものというべきである。したがって、当業者において、栓体に空気抜きを設けないようにすることが、そのこととは関連性の乏しい上記合成樹脂被覆及び円錐上凹凸面が存在するが故に、困難となるということはできない。したがって、原告の主張は失当である。
(3) よって、本件考案は、引用例記載の発明に基づき当業者がきわめて容易に考案をすることができたものというべきである。
3 以上のとおり、本件考案が、引用例記載の発明に基づき当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとした審決の認定判断は正当であり、審決には原告主張の違法はない。
第4 よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 持本健司 裁判官 山田知司)
別紙図面1
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別紙図面2
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